成瀬

  • 『くちづけ』1955/JPN 『第一話 くちづけ』 筧正典 |**|

            『第二話 霧の中の少女』 鈴木英夫 |****|
            『第三話 女同士』 成瀬巳喜男 |****|

成瀬巳喜男祭り続き。

舞姫』同一フレームにカメラに背を向けた人が三人もいる。奥で唯一カメラのほうを向いた山村聡の孤立。ちょっとアントニオーニっぽいショットだなと思う。成瀬のほうがもちろん遥かにえらいけど。

『くちづけ』 かなり水準の高いオムニバス。筧正典も悪くなかったと思うが、鈴木と成瀬が素晴らしいのでちょっと印象が薄い。ここで成瀬の見せる語りの巧さは驚くべきものがある。以下ネタばれ。医者(上原兼)の夫人、高峰秀子が、看護婦(中村メイ子)の日記に自分の夫への想いが綴られているのを発見してしまう。慌てた高峰は、看護婦の気持ちを余所に逸らそうと、八百屋の小林桂樹を一押しする。覿面、ふたりはいい仲になって、やがてめでたく結婚。何の事情も知らなかった上原は、事の次第を高峰に教えてもらって、いらない心配をして馬鹿だなあと笑う。嫁に行った看護婦の後任の看護婦が、これまた美人。一難去ってまた一難、と話だけだと他愛もないが、的確な細部を集めてさらりと語る。短編としては完璧だと思う。自転車。

でも、成瀬以上に感動したのは、鈴木英夫の『霧の中の少女』という小編。(ことによると私の趣味の問題なのかも知れないが、)ジャン・ルノワールを思わせる美しい映画だ。中原ひとみが超絶にかわいい。不満を言えばラストはカメラも列車を追う中原と一緒に疾走してほしかった。

『ひき逃げ』 増村保造あたりから刺激を受けたのかなあ。高峰秀子の歪んだ顔をあんなに執拗に撮る必要があったのだろうか。成瀬は時々こういう、まったく気の滅入るしかないような映画を撮る。