Ermanno Olmi

次々と繰り出される美しいシーンに終盤までうっとりしながら、見入る。ストーリーの方は、クレジットカードを持った救い主ということで、ちょっと洒落た寓話なのねという程度の理解で見ていたものだから、最後に頭の固い司教と対峙するときも、イエスが戦った律法学者に見立てて、あくまで神学的に正当なやり方でやっつけるのかしらんと思いきや、「神様にこそ物申したい、てやんでい!」(雰囲気)みたいなことを言い出す。単なる聖書の寓話ではないのだ(細部の描写に意味を見出そうと思えば、いくらでも解釈が可能だろうし、実際その誘惑に駆られないでもないが)。
しかしそういうことも、あるいはオルミの思想がどうとかそういうこともまあ、放って置いても見られてしまうのがこの映画だ。例えば、「書かれたもの」と「語られ(てい)るもの」との対照が際立つ映画でもあるし(最後のナレーションによってこの映画自体が「語られ(てい)るもの」であることが明らかになる)、あるいは些か浅はかすぎるかも知れないが、歯に衣着せぬ口ぶりで、ピザを配って回る、「歯は馬みたい」な、ピザ屋の娘の淡い恋の話と見たって一向に構わない。「キリストさん」と呼ばれる主人公とこのピザ屋の娘が、村の夜会で踊るところ、彼方に通る遊覧船が美しい。不思議な雰囲気を醸すこのシーンを見てわたしの頭に浮かんだのはブレッソンの『白夜』だった。
吃驚すべき冒頭と、のどかなだけでない豊かさ溢れる中盤、味わい深い結末、愛らしい映画だ。