怒りの刃/Passion

『怒りの刃 (Passion) 』 アラン・ドワン 1954/US

アラン・ドワン祭り一本目。「怒りの刃」も「Passion」もそっけないけど、ふたつ並んだら熱いタイトルだなって思う。

オリヴェイラなんか見てると70歳前後なんてまだまだこれからという風につい考えてしまうし、アラン・ドワンが亡くなったのが1981年(96歳)だから、1954年のドワンもまだ晩年というわけではないけど、1961年の『最も危険な生き残り』が遺作となってしまったので、400本以上あるとてつもないキャリアの、これは最後期の一本のひとつと言えるでしょう。スタジオはRKO、撮影はジョン・アルトン。

シュトロハイムの映画でしかついぞ見たことないような傾斜の山腹を、妻を殺した仇目掛けて、黙々と徒歩で追跡していたら、慌てた敵が勝手に崖から滑落し、今にも力尽きようというところを、主人公(コーネル・ワイルド)は殺すわけにもいかなくなって、しっかり何発か殴りながらも、山小屋に運ぶや否や、主人公を追う二人組の警官との銃撃戦へとまっしぐらに展開していくという、異様だけど見事な80分ものの復讐劇です。

モンテイロ映画で見たリスボンを思わせるような、細い坂道を見下ろしたショットに涙が出そうになったのは、取り返しのつかないものを取り返すこともできないと考えるゆとりも得られぬまま、復讐に身をやつし、死んだ妻とその妹の二役を演じるイヴォンヌ・デ・カーロに過去の幻影を纏わせるひまもまたなく、ただひたすらと、黙々と、前へ前へと猛進し、仇を追い詰めていく主人公のその後の運命の、それが始まりの一本道だったからかもしれません。


カラーでばんばん撃ったり刺したりするのに、(このポスターのシーンを除いて)血糊とか何もなく、皆撃たれたときの演技が一緒というところもまた何とも憎めなかったです。たぶん、血を流しているひまなんてないんでしょう。