市民図書館から連絡があり、注文していた小林美代子さんの髪の花が届く。三鷹の図書館から借りてきたらしい。うーん、やはり住むなら三鷹市武蔵野市がよいだろうか。それはさておき髪の花、想像を遥かに超えていました。

冒頭部

 母上様、三回目の手紙をさしあげます。前の二回の返事を随分待ちましたが、ついに下さいませんでしたね。一回目は自分の名を思い出せた喜びを先ずあなたに知らせたくて、まだ記憶に戻らないひらがなの二つ三つを友人に聞きながら書きました。私は昔きっとそうであったように、段々一人前になれるような気がいたします。どうぞお見守り下さい。
 これからも一月に一度ずつお便りいたします。
 先生は私に、あなたは何者でここがどこか知っているかと聞かれて、名は貝塚ふさ子といい、この精神病院の患者であると、すらすら答えることができました。それから三月経ちました。古い患者が、あなたはたしか入院してから七年目だと教えてくれました。言われれば七年目にも、或は四ヵ月目にも思えて私にはよく判りません。
 私は思い出せない母上様に向って手紙を書いています。私にも母があった筈なので、あなたの生きている可能性の方を信じています。母の亡い患者は、家族が再発のさいの事故発生をあまりに恐れ、複雑な家庭の事情もあって、押して、引き取ることもされず、病院で一生を終る人が多いのです。母のある患者は、総てに目をつぶって、何回でも退院させられています。私も母上様が私を見つけてくれたら、そうしてもらえるものと信じています。

手紙というものは祈りなのだ。では小説とはなんでしょうか。という思考の泥沼にはまるある八月の"無謀な瞬間"を、ああまた生きている。