アメリカ映画たち

  • 『独裁/スターリン (STALIN)』 アイヴァン・パッサー 1992年 (174分) |***|

なんとも穏やかでない映画。1933年、チェコスロヴァキア生まれのアイヴァン・パッサーが、69年ごろにアメリカへ亡命し、壁崩壊後の92年にハンガリーでロケーションしたスターリンの映画を、アメリカのテレビ映画として撮る。この事実だけでもう一本映画ができそうだ。
言語は英語、主演がロバート・デュバル、上映時間が174分!(IMDbでは166分となっている)。うーむ、ハード。

1992年の『許されざる者』で悪徳保安官だったジーン・ハックマンが、この映画では保安官殺しの悪徳市長で登場する。1年後には上院議員にまで出世し(『バードケージ』)、さらにその一年後には大統領にまで上り詰める(『『目撃』』)が、大体ろくな死に方をしない。しかし、何度死のうが、涼しい顔で次の映画に出演し、しかもちっとも心を入れ替えないで復活する姿が何とも感動的だ。もう引退したという話も聞いたが(最後の出演作は2004年の『ムースポート』)、元気なイーストウッドと同い年なんだから、また悪辣に、それ故華麗に、あの不敵な笑みを浮かべてカムバックしてほしい。

冒頭のカッティングからして凄い。あたり一面荒涼とした砂漠で一人、ジェイソン・ロバーズと獲物のトカゲとの切り替えしの直後、見えない弾丸がトカゲを粉々にするかなり短いショット、それに続き、無法者2人とロバーズとを撮った長さのばらばらなショットが、ロバーズの主観ショットを中心に繋げられていくのだが、視線をつないで空間を把握しようと思っていると、ずんずん2人が対角線上に近づいて来て、時間が密かに省略され、あれよあれよという間に、三人の距離が縮まる。この不穏な雰囲気。そして、銃も水も馬も奪われたロバーズが、遠ざかる2人を見遣って、生還と復讐を誓うショットがやはりロバーズの見た目ショットと顔のアップで繋がれていく。巧みに時間が飛ばされて、画面分割の軽妙なタイトルバックの内に4日も時間が経過する。4日間、飢えと渇きの徘徊の末、天に召されると覚悟したところで、水を発見して物語が始まる。
胸元を大きく開けて登場するステラ・スティーヴンスは『底抜け大学教授』でも、似たようにジェリー・ルイスの過剰な視線を惹きつけていた。わたしはむしろその金髪の後頭部に魔力を感じる。音楽はジェリー・ゴールドスミス



偉大なるジーン・ハックマン