土田九作は、踏幅の広い階段を、一つ一つ、ゆっくりと踏んで降りた。数は十一段であった。人間とは、自ら非常に哀れな時と、空白なまで心の爽やかな時に階段の数を知っている。 

―――『地下室アントンの一夜』 尾崎翠

尾崎翠集成〈上〉 (ちくま文庫)

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