テキサスの死闘

  • 『テキサスの死闘 (Terror in a Texas Town ) 』 ジョセフ・H・ルイス 1958/US/80min |****

ジョセフ・H・ルイスの最後の映画演出作で撮影期間わずか10日間。その後はもっぱらテレビのほうに行ってしまう。吉田広明の『B級ノワール論』によれば、脚本はドルトン・トランボ(クレジットのベン・ペリーはフロント)で、他にジョン・ハワード・ローソンとミッチ・リンデマンというブラックリストの犠牲者たちが参加しているのだとか。スターリング・ヘイドンと並んで映画のもう一人の主役ともいえる不気味な殺人者の役をを演じたネドリック・ヤングもまたブラック・リストに載せられた不幸な人で、この映画の企画は彼が持ち込んだものだという。ちなみにスターリング・ヘイドンはいわゆる友好的証人だというから、驚きだ。

驚きといえば、この映画の始まりもまた驚きだ。ヘイドンが何やら物騒な槍のようなものを持ってずんずん前方へやってくる。その槍のようなものは捕鯨用の銛だと後からわかるのだが、いきなり、このヘイドンの銛とヤングの拳銃の対決というクライマックスのシーンから始まるので、冒頭からして異様な盛り上がりを見せる。黒手袋をした気味の悪い男(ヤング)が、「そんなに遠いと勝ち目ないよ、さああと5歩だけ近づいてごらん・・、あと3歩でいいんだ・・、あと1歩・・」と怪しげに呟くかと思えば、ヘイドンはヘイドンで、あのホオジロザメみたいな黒目でヤングを睨みつけながら、不動の姿勢で捕鯨用の槍を構えているっていう、これは確かにTerror in a Texas Townだ・・!と呆れて見守る他ない。そして、一体なんでそんな事態になったのよという顛末が本編のほとんどで、最後の正真正銘のクライマックスに冒頭のシーンが更に密に反復される。

なかなかカットを割らない室内のシーンも魅力で、画面のあちこちにいる三人がみんな画面手前を見て喋っているシーンとか、一体だれを見ればいいのよって感じが却って素晴らしい。

ヘイドンが、ついに銛を持ってヤングに立ち向かおうと決心し、線路を越え、丘を越え、町に向かうところに挿入される、銛を持ったヘイドンの小さいシルエットが見えるロングショットが『狩人の夜』での馬上のロバート・ミッチャムを思わせる。どちらも怖いほど頼もしい。でも、『狩人の夜』に出てくる多様な移動手段とは違って(というか比較対象にするのはおかしいが)、『テキサスの死闘』の主人公の主な移動手段があくまで徒歩っていうところがこの映画の魅力だと思う。歩く映画。


そして映画の中のヘイドンも映画の外のルイスも、とにかく歩き疲れましたよという感じのあのあっけない結末・・。