ハマーフィルムを2本。

今月ベストかな。

(9/10追記)備忘のためメモ ネタばれあり
冷戦下で撮られた、不穏な空気漲るロージーの傑作。はじめ、非行少年グループから逃げ出したい娘ジョーン(シャーリー・アン・フィールド)と連れ出す男サイモン(マクドナルド・ケリー)のあばんちゅーると逃避行の映画かと少しでも考えたものをあざ笑うかのように、映画は漸進的に横滑りして行く。
非行少年グループのリーダーであり、女の兄でもあるキング(オリヴァー・リード)と呼ばれる男に追い詰められ、軍の施設に逃げ込んだ二人は崖から転落するも、奇妙な子供たちに助けられる。何が奇妙かというと、彼らには体温というものがまったくなく、死人のように冷たいのだ。というのも彼らは被爆した両親のもとで生まれた少年少女で、どういうわけか放射能に対する免疫があり、来るべき核の時代を生き抜くために、世間から隔絶された軍施設で特別に教育されている秘密の子供たちだったのだ。逃避行の二人の肌に順々に恥ずかしそうに触っては、人の肌のぬくもりをはじめて知り、静かにその感触を確かめるシーンが痛ましくも美しい。子供たちは、肌の温かい二人と、二人を追ってきたもののやはり崖から転落したところを子供のひとりに救助されたキングとの三人の大人たちを、彼らのことを外界に連れ出してくれる救世主だと思い込む。だが、彼らの身体から発せられる放射能は確実に外の人間に危害を与えるという乗り越えがたいジレンマがある。車で爆走して施設から逃げ出すキングを慕ってついて行くひとりの少年にキングが「おまえは俺と一緒には来れないんだ、おまえは毒なんだ」と発するシーンにそのジレンマは痛ましく言い現わされている。
施設を逃げ出すも次々に捕獲される子供たちや、(恐ろしく危険なヘリコプターの空撮で捉えられた)施設の反対者である女性彫刻家が施設の監督者に射殺されるショット等を見ていると、人間の歴史を動かす快楽の漸進的横滑りとは不安の漸進的横滑りでもあると、思わされる。そして行きつく先はうんざりするほど暗いと、二つの逃避行に関わった男女の表情が物語っている。